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zoom RSS 千億の昼と夜

<<   作成日時 : 2008/10/22 17:10   >>

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千億の昼と夜   


湯を沸かし、
さましておく。
挽きたての米糠は、
果物の香りがする。
塩をふり、
湯冷ましをそそぎ、
きれいな手で、
捏ねる。

みずみずしい葉っぱの野菜を入れる。
二日、三日と、繰り返す。
ぬか床の始まりは、
それでいい。
その後は、
胡瓜、茄子、大根、人参、
夕日を観ながら漬け込み、
朝日に取り出す。
緑、紫、白、朱色、
皿に美しく並べる。
古くからの、
朝食の風景だ。

冷蔵庫がなかった江戸時代、
夏の野菜を日持ちさせようと、
庶民の知恵で塩漬けしたものか?
この食べ物は、
冷たい井戸水で晒し、
手のひらで軽く絞れば、
文字通り「香の物」となる。
ふくよかな酸っぱさ、
すずしい香り。
もう、箸が止まらない。
昔の人よありがとう。

現代人のわたしは、
糠床をホーローの樽で仕込み、
幾重にもカバーをして、
「乳酸菌」「酵母」の理屈も知っている。
学校で、
バイオを学んでいる娘が言うには、
ぬか床には、グラムあたり
三千五百万の乳酸菌がいるとか。
わたしの育てた糠床は五キロ、
ここには、
数千憶の命が息づいている。

子どものころ読んだSF小説、
大きなガラス瓶の中に、
小さな宇宙を創った博士の話があった。
進化した惑星に、
レーザーを照射したり、
隕石をぶつけてみたり、
やりたい放題の実験。

糠床に、
唐辛子が良いときけば投げ入れ、
昆布がうまいときけば敷き詰め、
ニンニクがたまらないとぶつけ、
糠を足し、塩を足し、
ひっくり返し、捏ねる捏ねる捏ねる、
古釘入れ、
ビール入れ、
山椒入れ、
手当たり次第、
リンゴ、バナナ、梨、柿、
松茸、稲庭うどん、トリのササミ、チーズ、
漬ける漬ける漬ける、
やりたい放題の実験。

わたしは、
千億の昼と夜を支配する〃神〃なのだ。

テーブルに新聞紙を広げる。
読まない。
爪を切る。
オペ前のドクターのように、
清潔に手を洗う。
マスクもする。
野菜を洗い、
あく抜きをして、
塩揉みする。
宇宙の餌を作る。

ぬか床に手を入れる、
ほっこり温かい。
練っていくと、黄金の輝き。
「臭い」と娘が言う。
罰当たりな異文化の民の言葉だ。
わたしは、短いが美しい呪文を唱えながら、
宇宙を攪拌する。
「産めよ増やせよ天まで満ちよ」

毎朝、毎晩、
眠っていても気になる。
あの子たちは元気だろうか。
もう、漬け物の味など二の次だ。
悪い虫がつきませんように。
雑菌がはびこりませんように。
秋も深まった。
肌寒い夜には、
毛布をかけて、
子守歌を歌いながら、
わたしは千億の宇宙と、
添い寝している。





「詩よ歌よひびけ 第11回 朗読会」
(刈谷市市民会館)にて朗読。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
POEDASHIお疲れ様でした。
昨日の「家庭用原爆」や「あめ玉」といい、
この「ぬか床」といい、
ミクロなアイテムでマクロな世界を表現している感じが好きです。
またポップコーンででも会いましょう。
三原千尋
2009/08/23 13:21
□三原千尋さま≫
 遅いレスですみません。
「ミクロなアイテム」
自分では気付きませんでした。
教えてくださって、ありがとうございました。

わたし、今、ほとんど  mixiにいるので、
https://id.mixi.jp/mio
よろしかったら、そちらへも どうぞ。
みおよしき
2009/08/27 15:36

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