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zoom RSS わたしがイワシだ。

<<   作成日時 : 2008/01/25 13:00   >>

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ポケットティッシュ


電車を降り、
混み合うホームから、
エスカレーターを流れて行くと、
自分が鰯の群れの一匹になったような気がする。
ぼんやりとどこかに紛れてしまう。

自動改札を出してもらい、
前を歩く人をけっ飛ばさないよう、
それだけを気にしながら、
案内看板の矢印が指す方へ、
ゆらゆら連れられて行く。
人がこんなにおとなしく、
狭苦しく歩いていく。

わたしは、
しっかりしなくてはいけない。
いつまでも前の人についていってはいけない。
知らない人なんだから。
これから、地下鉄に乗り換えなくては。
切符売り場は、どこだ――

    *

明るい緑色のスタッフジャンパーを着た
女の人が、
にこやかな顔で、
みんなに切符を配っている。
いやいや、違う、
しっかりしなくてはいけない。
あれは、
いつものポケットティッシュだ。

みんなで流れていって、
お年寄り夫婦がもらい、
女子高校生がもらい、
若いサラリーマン風の人がもらい、
髪を栗色に染めたご婦人がもらった。
その後が、わたし……

わたしは、ほしくなかった。
こういうところで配られているティッシュは、
家に持って帰れない宣伝が多い。
うっかり、職場で落として、
「落ちましたよ、冥土のみやげ喫茶」
なんて、読み上げられたら、
しどろもどろに弁解しなくてはならない。

配っている人は、
がっかりするかもしれないが、
さりげなく、
ことわらなければならない。
つぎつぎに受け取る人がいて、
わたしが目の前まで来ると、
ティッシュのお姉さんは、
「あっ」という顔をして、
出した手を引っ込めたのだ。

行き過ぎで、振り返ると、
すぐ後ろの女性二人連れがもらい、
赤ちゃん抱いた母親がもらい、
怖そうなサングラスの人もらっていた。
わたしは、ほしくなかった。
でも、なぜ、わたしだけが
「あっ」なんだろう。なんなのだ。

    *

しっかりしなくてはいけない、
わたし。
時間はまだある。
物陰に隠れて、
謎のティッシュを見ていることにした。

肩幅ほどに足を開き、
左手に束になったものを持ち、
右手に掴むと、
顔の横から半円を描くように
手の甲を返して、
ティッシュは降りてくる。

にこやかに、
視線は遠くJR駅の出口を見たり
近くに来た人を見たり
往来の妨げにならないよう、
子どもにも気をつけて
時にはターンして、
背後の人の流れにも、
何と言っているのだろう?
「お願いします」でもない、
「はいどうぞ」でもない、
歌い終わった演歌歌手の
言葉が聞こえない挨拶のように、
口だけが動いている。
一分足らずの間に、
ティッシュは百近く空から舞い降りた。
彼女は千手観音か?

思い切って、
飛び出していって、
両手を出し、
「ください」と言ってみた。
ティッシュは「愛の献血」だった。
「ごめんなさい」と
彼女は言った。
遠くからとても緊張して歩いて来られて、
顔色もお魚みたいに青かったものですから――

献血は無理だと想ったのだという。
それより何も、
こんなに間合いの取れない人に、
初めて会ったのだと、
すまなそうに笑った。

冬の街に、
今日は「愛」が配られていく。
それを、貰えなかった わたしは、
ゆらゆらと――地下鉄に乗って
‥‥‥、
どこへ行く用事だったか?
すっかり 
忘れてしまった。

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