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zoom RSS わたしが店長だ

<<   作成日時 : 2007/12/22 11:59   >>

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きつねずし


透明な
アクリル板で囲まれた、
ちいさな売店が仕事場です。
ひとつ七十円の
きつねずしを売っています。
安くて おいしいので、
みんな 喜んで買います。
不景気になってからというもの、
デパートの地下は、
上の高級な売り場より、
ずっとにぎやかです。
とても買えないものと買えるもの。
お惣菜やくだものが売れるのは、
みんなの正直なやりくりです。

お客さんが、
驚くほど増えました。
多い日には、
六千個のきつねが売れます。
店長の私と売り子が三人、
握って、包んで、昼休みもとれなくて、
後ろ向きに隠れて、
すし飯をほおばってることもあります。
今年、パートさんが五人やめました。
人に見られながら、立ちっぱなしの手仕事、
とても きついので、
会社が募集しても すぐにやめます。
先週、とうとう、
二年勤めた志乃ちゃんがやめました。
人不足で残業になるのが続いたから、
病気になってしまいました。
わたしは店長なので、
若い人がかわいそうだし、
やめられません。

きのうテレビが来て
取材していきました。
〈行列のできる評判の店〉
に選ばれたそうです。
わたしは、
痩せました。
六十キロあった体重が、
今、四十と少しです。
食事が喉を通りません。
精神科に通っています。
はずかしいので、隣町の病院です。
家で二度倒れて、
救急車に乗せられました。
父親が泣きながら、
労働基準の役所に相談しましたが、
人集めの努力はしているので、
なんともなりません。

わたしは やめられません。
親は高齢だし、
四十近い女に、今と同じ給料くれるとこ、 
ほかにはないでしょう。
それに、わたしは、
デパートに つきあってる ひとがいます。
離れていくのは 怖いんです。
金使いの荒い人だから、
みんなは 騙されてるって言うけど、
わたしは それでもいいんです。
子どものころから苦労していて、
少しだけ いじけてるだけなんです。
悪いひとじゃありません。 
あのひとが いるから、
つらくても きつねを売っていられます。

わたしはきっと、
自分では気づかないうちに、
誰かを傷つけたり、
もっと何かひどい罪を犯していて、
だから許されずに ここに
透明な牢屋にいるんだと
思うようになりました。

わたしは仕事をします。
足が むくんで冷たくなります。
腕の静脈が、
筋肉に押しだされて浮いてきます。
もう並ばないで、
買わないで。 
そんな悲しい心の叫びも、
疲れて 疲れて
消えていきます。
わたしは もう、
お客さんを見ません。

気がつくと
わたしが見ているのは、
親指なんです。
ゴハンを整えている親指、
油揚げに押し入れている親指、
トレイに並べている親指を
ただ見ています。
わたしの仕事は、
だんだんと、
じぶんの
親指だけに
なっていきます。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
哀しいですね。たしかに現代の労働(きわめて単純化されていく)は人間を破壊していきます。このような物語詩はひとつのジャンルとしてもっともっと復権していいですね。
HIRO
2007/12/23 09:48
 この女性は、
しばらくして、妊娠がわかり、
職場をやめざるを得なくなり、
金遣いの荒い男ではありましたが、
デパートの若い男と所帯を持つことになります。
つらい仕事も辞めることができました。
高齢出産でしたが、
新しい命が、彼女を救うのです。
しかし、
苦労はまた、かたちを変えて、
彼女の元に、
律儀にやってくるのです。
もう、やめてあげて……。
みおよしき
2007/12/23 22:04

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